OBS Studioでゲーム配信の音声を改善:ノイズ抑制や音量調整に役立つフィルター設定
ゲーム配信において、映像だけでなく音声の品質も視聴体験に大きく影響します。クリアで聞き取りやすい音声は、視聴者が配信に集中し、長時間楽しむために非常に重要です。逆に、ノイズが多い、声が小さすぎる・大きすぎる、音量にばらつきがあるといった問題は、視聴者の離脱につながる可能性があります。
幸いなことに、OBS Studioには強力なオーディオフィルター機能が備わっており、これらの音声に関する一般的な問題を効果的に改善することが可能です。特別な外部機材や複雑なソフトウェアを使うことなく、OBS Studioの設定だけで音質を向上させることができます。
この記事では、OBS Studioのオーディオフィルター機能の中から、特にゲーム配信初心者の方におすすめしたい基本的なフィルターとその設定方法について解説します。ノイズの軽減、適切な音量調整、そして聞き取りやすい音声の安定化に役立つ設定をご紹介します。
OBS Studioのオーディオフィルターとは
オーディオフィルターは、音声ソース(マイク、デスクトップ音声など)に追加することで、その音声に様々な処理を加える機能です。例えば、特定の周波数の音を除去したり、音量を自動的に調整したりすることができます。
フィルターは、OBS Studioの「音声ミキサー」ドックから、設定したい音声ソースの歯車アイコンをクリックし、「フィルター」を選択することで設定画面が開きます。
初心者におすすめの基本的なオーディオフィルター
ゲーム配信の音声品質向上を目指す上で、まず押さえておきたい基本的なフィルターがいくつかあります。ここでは、特に効果的で設定も比較的簡単なフィルターを3つご紹介します。
1. ノイズ抑制
ゲーム配信では、エアコンの動作音、PCのファンノイズ、キーボードやマウスの操作音など、意図しない様々な環境音や機材ノイズがマイクに入り込んでしまうことがあります。ノイズ抑制フィルターは、これらの不要な音を軽減するために使用します。
設定方法:
- OBS Studioの音声ミキサーで、設定したい音声ソース(通常はマイク/Aux)の歯車アイコンをクリックします。
- 表示されるメニューから「フィルター」を選択します。
- フィルター画面の左下にある「+」ボタンをクリックします。
- リストから「ノイズ抑制」を選択します。
- フィルターの名前を任意で入力し、「OK」をクリックします。
ノイズ抑制の設定:
ノイズ抑制フィルターを追加すると、方法を選択するプルダウンメニューが表示されます。一般的な選択肢として以下の二つがあります。
- Speex (低性能、CPU負荷低): 比較的簡単なノイズ除去方法です。古いPCやCPU負荷を最小限に抑えたい場合に選択肢となり得ますが、除去性能は後述のRNNoiseに劣ります。
- RNNoise (高品質、CPU負荷高): 最新のAI技術を用いたノイズ抑制方法です。より自然で効果的なノイズ除去が可能ですが、CPUにある程度の負荷をかけます。現代のPCであれば、多くの場合RNNoiseを選択することをおすすめします。
RNNoiseを選択した場合、特別な設定項目は表示されません。Speexを選択した場合は「しきい値」という項目が表示され、この値を調整することでノイズ除去の強さを調整しますが、RNNoiseの方が高性能かつ調整不要なため、初心者にはRNNoiseが推奨されます。
注意点: ノイズ抑制を強くかけすぎると、話している声が不自然に聞こえたり、声自体が途切れてしまうことがあります。設定後は必ずテスト配信や録画を行い、ご自身の声が自然に聞こえるか確認してください。
2. ゲイン
ゲインフィルターは、単純に音声ソース全体の音量を調整するために使用します。マイクの入力レベルが低すぎる場合や高すぎる場合に、このフィルターで適切な音量に調整します。
設定方法:
- ノイズ抑制と同様に、音声ソースの「フィルター」画面を開きます。
- 左下の「+」ボタンをクリックし、「ゲイン」を選択します。
- フィルターの名前を任意で入力し、「OK」をクリックします。
ゲインの設定:
ゲインフィルターを追加すると、「ゲイン (dB)」というスライダーが表示されます。このスライダーを左右に動かすことで、音量を増減させることができます。
推奨設定: OBS Studioの音声ミキサーに表示される音声レベルメーターを見ながら調整します。通常、会話している際の音声レベルが黄色ゾーンの中間程度に収まるように調整することが推奨されます。赤色ゾーンに頻繁に入る場合は音が割れる可能性があるため、ゲインを下げてください。逆に、緑色ゾーンからほとんど出ない場合は、視聴者にとって小さすぎるためゲインを上げて調整します。
3. コンプレッサー
コンプレッサーは、音声の音量差を少なくし、全体的な音量レベルを均一に近づけるためのフィルターです。例えば、話す声が大きい時と小さい時がある場合、コンプレッサーは大きい音を抑え、小さい音を聞き取りやすくする効果があります。これにより、リスナーは音量調整の手間なく、快適に音声を聴くことができます。
設定方法:
- 音声ソースの「フィルター」画面を開きます。
- 左下の「+」ボタンをクリックし、「コンプレッサー」を選択します。
- フィルターの名前を任意で入力し、「OK」をクリックします。
コンプレッサーの設定:
コンプレッサーにはいくつかの設定項目がありますが、初心者の方は以下の項目を中心に調整します。
- 比率 (Ratio): コンプレッションの強さを設定します。例えば「4:1」の場合、しきい値を超えた音声が4dB上がろうとした時に、実際には1dBしか上がらないように抑えられます。初心者には「3:1」から「5:1」程度がおすすめです。
- しきい値 (Threshold): この値を超えた音声に対してコンプレッションが適用されます。OBSのレベルメーターを見ながら、通常の声の最も大きい部分がこの値を超えるように調整します。声が黄色ゾーンに入るあたり(-15dBから-10dB程度)に設定することが多いです。
- 出力ゲイン (Output Gain): コンプレッサーをかけると全体的に音量が小さくなる傾向があるため、この設定で最終的な音量を持ち上げます。他のフィルター(ゲインフィルターを含む)と合わせて、最終的な音量レベルが適切になるように調整します。
その他の項目(アタックタイム、リリースタイムなど)は、音声の立ち上がりや収まりに関わるより詳細な設定ですが、デフォルト値のままでも十分に効果が得られることが多いです。慣れてきたら調整してみるのが良いでしょう。
コンプレッサーの効果: コンプレッサーを適切に設定することで、話す声の大きさが多少変動しても、視聴者には安定した音量で届くようになります。これにより、非常に聞き取りやすい音声になります。
フィルターの適用順序
複数のオーディオフィルターを適用する場合、フィルターリストの上から順に処理が行われます。一般的な推奨順序は以下の通りです。
ノイズ抑制 → ゲイン → コンプレッサー(またはノイズゲート)
まずノイズを除去し、次に適切な基本音量に調整し、最後に音量のばらつきを抑える、という流れが自然で効果的です。
設定後の確認は必須
オーディオフィルターは、マイクの種類や声質、配信環境によって最適な設定値が異なります。上記で推奨した設定値はあくまで一般的な目安です。
設定を終えたら、必ずテスト配信を行うか、ローカル環境で録画を行い、実際の音声を聞いて確認してください。
- ノイズは十分に軽減されているか?
- 声が不自然に聞こえないか?
- 声が小さすぎたり大きすぎたりしないか?
- 大きな声を出した時に音が割れたりしないか?
- 小さな声も聞き取りやすいか?
これらの点を確認し、必要に応じて設定値を微調整してください。特にゲインとしきい値、出力ゲインは、音声ミキサーのレベルメーターを見ながら慎重に調整することが重要です。
よくある疑問点と対処法
Q: ノイズ抑制を設定したのに、まだノイズが入ってしまいます。
A: ノイズ抑制は万能ではありません。以下の点を確認してください。
- RNNoiseを使用しているか? Speexよりも高性能です。
- マイク自体が環境音を拾いやすい特性ではないか? 単一指向性のマイクは正面の音を優先するため、周囲の音を拾いにくい傾向があります。
- マイクとノイズ源(PC本体、エアコンなど)の位置関係は適切か?可能な限りマイクをノイズ源から離してください。
- 配信環境自体に大きなノイズがある場合、フィルターだけでは限界があります。環境音そのものを減らす(静かな部屋を選ぶ、換気扇を止めるなど)工夫も必要です。
Q: フィルターをかけたら、声がこもって聞こえるようになりました。
A: コンプレッサーやノイズ抑制の設定値が強すぎる可能性があります。特にコンプレッサーの比率やノイズ抑制のしきい値を下げてみてください。また、使用しているマイクの種類や性能、部屋の反響なども音質に影響します。
Q: フィルターをたくさんかけるとPCが重くなったりしませんか?
A: ここで紹介した基本的なオーディオフィルター(ノイズ抑制、ゲイン、コンプレッサー)は、一般的にPCへの負荷は非常に小さいです。多数のソースにフィルターを適用したり、特定の複雑なVSTプラグインフィルターを使用したりする場合は負荷が高まる可能性はありますが、通常のゲーム配信で数個のフィルターを使用する程度であれば、PCのパフォーマンスに大きな影響を与えることは稀です。
まとめ
OBS Studioのオーディオフィルター機能は、ゲーム配信の音声品質を向上させるための強力なツールです。特に「ノイズ抑制」「ゲイン」「コンプレッサー」の3つは、クリアで聞き取りやすい音声を実現する上で非常に役立ちます。
これらのフィルターを適切に設定し、テスト配信で音質を確認・調整することで、視聴者が快適に楽しめる配信環境を整えることができます。音声は、配信の成功に不可欠な要素の一つです。この記事で解説した基本的なフィルター設定を参考に、ぜひご自身の配信音声の改善に取り組んでみてください。一つずつ設定を確認し、最適なバランスを見つけることが、高品質なゲーム配信への一歩となります。